最近、パラレルキャリアという働き方や生き方が注目されています。経営学者のピーター・ドラッカー氏が提唱した考え方であり、人生100年時代を生きるビジネスパーソンにとっては、自分自身のキャリア形成を進めるために、また、企業にとっては社員の人材育成を支援するために活用できる新たな概念です。会社の人事担当の方や、キャリア形成で悩んでいるビジネスマンの方はぜひ参考にしてください。
1.パラレルキャリアとは
パラレルキャリアは、ピーター・ドラッカー氏が著書「明日を支配するもの」の中で提唱した考え方です。簡単に言えば「本業を持ちながら別のキャリアを作る」こと、または「自分自身のキャリアの中で別の世界を作る」ことです。具体的には、本業をしながらボランティアやその他の社会貢献活動に参加したり、大学院に入って学んだりするなどをすることで、視野を広め、人脈を広げ、新たな知識を習得する機会を得ることで、将来に向けて自分の価値を高めるための投資であると言えます。
このような考え方が注目されるようになった背景には、人生100年時代の到来があります。年金受給年齢の引上げとともに定年後の時間が長くなり、生活資金の確保が現実の問題として顕在化する中、私たちは100年という長い人生をどのように生きるべきかという課題に、正面から向き合わなければなりません。加えて、終身雇用という働き方が見直されつつある現在、ひとつの組織で働き続けることが本当に必要なのかという疑問も若い世代を中心に広がっています。
東京商工リサーチによれば、「2018年に倒産した企業の平均寿命」は23.9年で、最も平均寿命が長かったのは製造業33.9年、短命は金融・保険業11.7年となりました。また、倒産企業に占める業歴30年以上の老舗企業の比率は32.7%で過去最高でした。データは大卒の新規採用が定年になるまで会社が残っていない可能性のほうが高くなっていることを示しています。このような状況もパラレルキャリアが注目を浴びる理由の一つと考えられます。
2.パラレルキャリアと副業の違い
副業とパラレルキャリアの違いはどこにあるのでしょうか。働き方改革関連法案が成立し、2019年4月に施行される労働関係8法改正法で法的根拠が備わり、一定のルール下であれば副業・兼業が可能になります。
副業とは基本的に収入を得ることを目的に、本業に従事しつつ新たな仕事に就くことを指します。
一方、パラレルキャリアとは、先述のとおり、自らの視野の拡大、人脈の開拓、新たな知識の習得等によって自分自身の価値を高めることを目的としています。
働き方改革推進主体である厚生労働省が出している「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業・兼業のメリットとして下記の4点を挙げています。
- 離職せずとも別の仕事に就くことが可能で、スキルや経験を得ることで労働者が主体的にキャリアを形成できる
- 本業の所得を活かして、自分がやりたいことに挑戦でき、自己実現を追及できる
- 所得が増加する
- 本業を続けつつ、よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備・試行ができる
以上の通り、国が法的根拠を与える副業は、パラレルキャリアの形成に非常に近いものと言うことができます。狭義での副業ではないということさえ認識すれば、パラレルキャリアは理解しやすいでしょう。
3.パラレルキャリアのメリット
パラレルキャリのメリットを「労働者にとってのメリット」と「企業にとってのメリット」に分けて見ていきましょう。
3-1.労働者にとってのメリット
パラレルキャリアの労働者にとってのメリットは、副業との違いのところで述べたとおりですが、より実践的な言い方をすると、「名刺に書く肩書を増やすなど、自分自身をプロデュースして活躍の場を広げることで、創業・起業の下地づくりともなり、その結果として一つの組織に依存しない生き方ができるようになる」とも言えます。
3-2.企業にとってのメリット
個人のキャリア形成や将来の所得確保につながるのがパラレルキャリアですが、その有用性を認めた上で、実際に制度として支援するのは社員を雇用している企業にほかなりません。パラレルキャリアの形成が企業にとってメリットがなければ、企業だけに負担を求める新しい社会保障制度になってしまいます。厚生労働省のガイドラインによれば、企業側のメリットとして下記の例が挙げられています。
- 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる
- 労働者の自律性・自主性を促すことができる
- 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する
- 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる
多くが個人のメリットに関するものと言えますが、本業以外での活動が軌道に乗り始めると、個人・会社の両者はいくつかの問題に対処する必要が出てきます。
4.パラレルキャリアのデメリット
パラレルキャリアの形成において、考えられるデメリットを個人と企業別に整理してみます。なお、この点についても、厚生労働省のガイドラインに留意点として整理されているので、参考に掲載しておきます。
4-1.個人にとっての注意点
- 就業時間が長くなる可能性があるため、労働者自身による就業時間や健康の管理も一定程度必要
- 職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務を意識することが必要
- 1週間の所定労働時間が短い業務を複数行う場合、雇用保険等の適用がない場合があることに留意が必要
パラレルキャリア形成の本来の趣旨に従えば、企業の支援がなくとも社員が自分の休日などを活用することも考えられるため、就業時間については不透明な部分があります。その場合、就業時間への影響というよりも、自分自身の身体的・精神的な負荷が増大することが考えられ、本業に支障をきたす可能性もあります。つまりタイムマネジメントを含めた自己管理が重要になってくるでしょう。
4-2.企業にとっての注意点
企業の注意点としてガイドラインが指摘しているのは、個人の注意点に対する会社としての対応です。つまり、「自己責任」と「会社責任」のバランスが重要になります。
また、企業にとっては、社員の本業以外の活動が軌道に乗ると、退職の可能性が高まることが想定されます。さらに情報漏洩なども懸念事項となるでしょう。そのため職務専念、秘密保持、競業避止などの重要な課題を含め、企業には広範かつ緻密なルール作りが必要になります。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。パラレルキャリアは、形式的には副業と同じことを指しますが、単に副収入を得るだけでなく、人脈の開拓や新たな知識・スキルの習得等によって自分自身の価値を高めることを意味します。現在、政府は人生100年時代を見据えて副業やダブルワークを推奨していますが、本業がおろそかになってしまっては本末転倒とも言えます。優秀な人材を継続的に雇用・維持するためには、企業と個人の双方がパラレルキャリアを形成しながら成長できるような人事制度作りが必要不可欠になるでしょう。ビジネスマンや人事担当の方はこれを機会に、ぜひ自分のパラレルキャリア形成や、支援する制度作りについて検討してみてください。
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