人材マネジメントの分野では、モチベーションを維持するために国内外の経済情勢や社会環境の変化に応じて様々な手法が採られてきました。直近では成果主義の導入が挙げられますが、これがもたらすコンプライアンス経営との葛藤による組織全体の意欲低下や、従業員のメンタルヘルス問題などの副作用も課題となっています。
そこで今回は、新たな人材マネジメントの考え方として注目される「モチベーション3.0」を取り上げ、従業員のモチベーションを維持するにはどうすればいいのかを解説します。モチベーション低下に悩んでいる方、職場のモチベーションを上げたい方は、参考にしてみてください。
1.「モチベーション3.0」とは?
米国の作家であるダニエル・ピンク氏の著作「DRIVE」を日本語に翻訳した題名が「モチベーション3.0」です。同氏は「モチベーション3.0」について、リクルート・マネジメント・ソリューションズの機関紙で次のように語っています。
「生存本能に基づく最も原始的な動機付けをOSに置きかえて、モチベーション1.0と称すると、現在、多くの企業がマネジメントのベースにしているのは、報酬と罰で人を操ろうとするモチベーション2.0だ。しかし、この方法ではどうしても引き出せない力がある。モチベーション3.0は、旧態依然たる古いOSに代わる、より人間らしい、創造性を引き出す人材マネジメントの基本的な考え方として提案した(以上、同機関誌の記載内容に一部加筆)。」
現行モデルであるモチベーション2.0は、安易に報酬を与えると短絡的な思考に陥り、倫理に反する行動さえ起こしてしまうこと、また、高すぎる報酬には依存性があることを示しています。
賞罰ではなく、人を信じて自律性を尊重し、目的を共有しながら成長を促すというのが、モチベーション3.0の目的であり、そのキーワードとして、内発的動機付け要因となる、「自主性」「成長」「目的」の3つを挙げています。
2.モチベーション維持の3つのポイント
モチベーション維持の新たな手法としてモチベーション3.0モデルを考えるとき、「自主性」「成長」「目的」の3要素について知ることが大切です。
2-1.「自主性」を意識する
モチベーション2.0の基盤となる「報酬」は、いわゆる外発的動機付けとして、内発的動機付けの発端にすぎません。報酬は、自分と家族のために必要な額を得ることが基本です。人事労務管理の要素としては「衛生要因」に区分され、不足すると不満足要因となりますが、多くても内発的な動機付けには至らないとされています(米国心理学者フレデリック・ハーズバーグの二要因理論)。
つまり、会社が従業員にとっての基本的な報酬水準を満たしていれば、業績やモチベーションに重要な影響は与えないということです。米国の資本家・起業家であるジェフ・ガンサーは、ROWE(ロウ:完全結果志向の職場環境)という仕組みを採用してそれを証明しています。ROWEとは、決められた勤務スケジュールがなく、社員は好きな時間に出社するというスタイルで、自分の仕事を遂行して結果を出せば、出社の必要すらないという極端な働き方です。
「いつ」「どこで」「どのように仕事をするか」を従業員自身が決めることができるROWEは、管理者がオフィスを巡回して、社員が出勤して業務に励んでいるかをチェックするという従来のマネジメントスタイルの逆を行くものです。
ほとんどの従業員は、当初この働き方に馴染めなかったようですが、数週間で自分なりの仕事のやり方を見つけ、生産性が向上し、仕事に対するストレスが軽減されたと言います。
ROWEでは、各従業員の置かれたライフステージに合わせて仕事をするためのセルフコントロールが鍵となるため、自ずと自主性(自律性)が育まれるという特性があります。
このように自律性を尊重し、そのことによって人間に生来備わった創造性を発揮するのは、モチベーション3.0の出発点と言えます。
2-2.「成長」を信じて取り組む
統制から自律への移行は、統制=従順から、自律=エンゲージメント(関与、絆)への変化をもたらします。統制時代で従業員に最も必要とされたのは「従順な態度」ですが、自律時代では仕事や人との関わりに積極的に関与することが求められており、自身の「成長」にもつながります。モチベーション3.0では、この成長を説明するために「フロー」という概念を使っています。
自律とエンゲージメントは、自己を充足させるための目標設定につながり、目標を達成しようとする活動自体が成長につながります。そして、その活動に取り組んでいる時間は、いわばトランス状態であり、最も満足できる状態を「フロー」という言葉で言い表しています。
ダニエル・ピンク氏は、モチベーション3.0において、「フロー(=最も満足できる状態)を体験できない職場は、従業員の満足度においても、組織の健全性においても高い代償を払わなくてはならない。フローを配慮した環境の創造が、職場の生産性と満足度を上げるという事実に、マイクロソフトやトヨタなどの多数の企業が気付いている」と語っています。
モチベーション3.0においては、フローによる成長を「マスタリー(熟達)」と称し、従業員の充実感を満たす要因として重要視しています。
2-3.利他的な「目的」を持つ
成長(マスタリー、熟達)を目指す自律的な人は、高い生産性を実現するとともに、自らも高い満足を得ることができます。しかし、このような人は、自らの欲求を自分以外のより大きな目的に結び付けるとも言われています。
自分の利益以外とは、すなわち「利他」の精神です。モチベーション2.0の世界では、「利他」とは綺麗事に過ぎず、単なるポーズでしかありません。
一方、モチベーション3.0の世界では、「賞罰」から「人間の本質」へとマネジメントの前提が移ることで、人と社会の役に立ちたいという目的意識が醸成され、それが自身の満足につながるという変化に繋がります。
昨今の企業は、コンプライアンスからCSR(=社会的責任)を意識した企業風土を標榜していますが、形だけに終わらせないためには、従業員が利他的な目的を持てるよう、自律と成長を促すマネジメントに移行することが求められます。
3.まとめ
いかがでしたでしょうか。モチベーション3.0は近代的マネジメントが目指すべき方向とも言われており、労働力不足問題の解決策として、生産性の向上は企業にとって対処すべき重要課題です。従業員の満足度や生産性の向上を図る際は、モチベーション3.0の考え方も参考にしてみてください。
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