政府は、働き方改革と生産性向上を目的にテレワークを推進していますが、総務省によると2019年時点でテレワークを導入する企業は2割以下にとどまっています。しかし、昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて改めてクローズアップされたことで、大企業のみならず中小・零細企業までテレワークへの関心が高まっています。
そこで今回は、今注目を集めている働き方「テレワーク」について、テレワークの意味から導入するメリット、問題点について詳しくご紹介します。
1.テレワークとは?
内閣府男女共同参画局は、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の中でテレワークを次のように定義しています。
企業に勤務する被雇用者が行うテレワークは一般的に「雇用型」と言われています。雇用型テレワークには、自宅を就業場所とする「在宅勤務」や、施設に依存するのではなく、場所や時間を選ばずに業務が可能な「モバイルワーク」、サテライトオフィスやテレワークセンター等を就業場所とする「施設利用型」等があります。
一方、自営型(非雇用型)は、個人事業者や小規模事業者等が行うもので、専門性が高く、独立自営の度合いが強い「SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)」や、内職型の業務態様を指します。
2.テレワークのメリット
ここでは一般企業が導入している「雇用型」テレワークのメリットについて見ていきます。労働政策研究・研修機構が2015年に実施した「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」によると、従業員と企業側から次のようなメリットが挙げられています。
・テレワーク実施のメリット
従業員側のメリット | 企業側のメリット | ||
---|---|---|---|
仕事の生産性・効率性の向上 | 54.4% | 従業員の家庭生活両立 | 51.8% |
メリットは特にない | 18.1% | 定型的業務の効率・生産性の向上 | 35.7% |
通勤による負担が少ない | 17.4% | 移動時間の短縮・効率化 | 35.7% |
顧客サービスが向上する | 16.5% | 従業員の健康的生活の確保 | 33.9% |
ストレスが減り心のゆとりが持てる | 15.2% | 優秀な人材確保 | 23.2% |
家族とコミュニケーションがとれる | 10.0% | 創造的業務の効率・生産性の向上 | 17.9% |
時間管理に対する意識が高まる | 9.3% | 従業員の自己管理能力の向上 | 12.5% |
家事の時間が増える | 7.9% | 障害のある従業員への対応 | 10.7% |
育児・介護の時間が増える | 5.5% | 高齢の従業員対応 | 7.1% |
居住場所の選択肢が広がる | 5.4% | 地震など災害対応 | 5.4% |
趣味や自己啓発などの時間が持てる | 4.4% | 遠隔地雇用 | 4.1% |
個性が活かされ自律性が高まる | 3.6% | 人件費削減 | 1.8% |
地域社会活動等の時間が持てる | 0.8% | オフィスコスト削減 | 0.0% |
給与が上がる | 0.6% | その他 | 7.1% |
その他 | 10.6% | - | - |
労働政策研究・研修機構「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」を参考に作成
従業員側のメリットとしては、テレワークを導入することで通勤の負担が少なくなり、仕事の生産性や効率性の向上につながったとする回答が多くありました。企業側としても優秀な人材の確保や業務の効率化につながるなど、様々なメリットが挙げられています。
このように日本のテレワークでは、都市問題の緩和や社会問題解決の手段として期待されているのも特徴です。詳しく見ていきましょう。
2-1.都市問題の解決
テレワークは、通勤の混雑や過密状態による災害時の帰宅困難者対策としての期待があります。上記の調査結果を見ると、「通勤による負担が少ない(従業員)」「移動時間の短縮・効率化(企業)」といった回答が比較的多いことがわかります。
特に、企業側調査の「移動時間の短縮・効率化」においては、終日在宅(35.7%)よりも部分在宅(44.9%)が、部分在宅よりもモバイル(58.4%)が、効果としての実感が高いという結果が出ています。
このように都市問題の緩和は、地方創生推進策と言う意味でも人材や企業の地方への誘致と併せて、テレワークによる効果が見込まれています。
2-2.社会問題の解決
働き方改革や女性・高齢者・障害者の就業促進といった社会問題の改善につながるのもテレワークのメリットです。実際、テレワークの実施により、「仕事の生産性・効率性の向上」「ストレス減少」「家族とのコミュニケーション向上」といった効果が表れています。
また、生産性の向上については、ペーパーレスが進むことによるコストカットや残業時間の削減、離職率の低下といった副次的な効果を含んでいます。さらに移動手段の変化やペーパーレス化は、二酸化炭素の削減など地球環境負荷の低減などにもつながっていきます。
2-3.ビジネスにおけるメリット
テレワーク導入によるビジネス上のメリットは、働き方改革につながる効果として表れています。例えば、企業における優秀な人材確保やリテンションの向上、イノベーションやさらなる生産性の改善、顧客満足・従業員満足度の上昇など、好循環を生み出さす契機となっています。
3.テレワークの問題点
テレワークの問題点や課題について、前出の「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」結果を参考に確認してみましょう。
・雇用型テレワークの課題
従業員側のデメリット | 企業側のデメリット | ||
---|---|---|---|
仕事と仕事以外の切り分けが困難 | 38.3% | 進捗管理が難しい | 36.4% |
長時間労働になりやすい | 21.2% | 労働時間管理が難しい | 30.9% |
仕事の評価が難しい | 16.9% | コミュニケーションに問題がある | 27.3% |
上司等とのコミュニケーションが困難 | 11.4% | 情報セキュリティの確保 | 27.3% |
共有情報等へのアクセスが難しい | 9.5% | 評価が難しい | 18.2% |
書類や資料が分散する | 9.4% | 機器のコスト | 14.5% |
成果を出すプレッシャーを感じる | 7.2% | 賃金額の決定が難しい | 7.3% |
健康管理が難しい | 6.0% | 安全衛生管理が難しい | 7.3% |
孤独感や疎外感を感じる | 5.7% | 労災認定があいまい | 7.3% |
周囲の雑音が仕事の邪魔になる | 5.6% | メリットが不明確 | 1.8% |
スキルアップや能力開発が難しい | 1.9% | 深夜割増賃金が必要 | 0.0% |
給与が下がる | 1.4% | 勤務地域の最低賃金が適用できない | 0.0% |
その他 | 11.1% | - | - |
デメリットは特にない | 28.1% | - | - |
労働政策研究・研修機構「情報通信機器を利用した多様な働き方の実態に関する調査」を参考に作成
デメリットとしては、仕事とプライベートの仕切りや時間管理、情報セキュリティに関する項目が多く見られます。また、企業が指摘している仕事に対する「評価の難しさ」は、従業員側における「仕事の評価の難しさ」や「成果を出すプレッシャー」と共通する課題と言えます。
このほか、海外に比べてテレワークが普及していない原因とされる人事システムを中心とした日本型企業経営スタイルに内在する問題についても、検討する余地が残っています。以下、テレワークの問題点について詳しく見ていきます。
3-1.労働時間の長期化
テレワークの実施については以前から労働時間管理の困難さが指摘されています。在宅というある意味で自由度の高い環境での業務は、仕事とプライベートの区分が難しく、自己管理の苦手な方にとっては集中して業務に取り組むことができずに、作業時間が深夜に及ぶことも少なくありません。
また、部分在宅やモバイルの場合には、移動時間を伴うこともあって時間の使い方が難しくなり、長時間労働に陥りやすい側面もあります。
そのため、テレワークの実施と同時に、国や企業側には次のようなルール作りも併せて求められます。
- 通常の労働時間制度やフレックスタイム制における中抜け時間(子育てや介護によるものを含む)の扱いを整理する
- 通常の労働時間制度やフレックスタイム制における、部分的にテレワーク(例えば半日)する際の移動時間の扱いを整理する
- フレックスタイム制や裁量労働制について、国のガイドラインにテレワークでも活用できることを明記する
- 長時間労働を防ぐため、深夜労働の制限や休日のメール送信等はなるべく控える
- 企業が行うべき労働安全衛生管理について整理する
3-2.成果主義になりやすい
労働時間の管理とともに困難なのが人事評価です。国内企業においては、目標管理制度に基づく業績評価、いわゆる成果主義が導入されているのが一般的です。しかし、営業部門のように売上高や訪問件数といった定量目標がある業種以外では、業績評価自体が困難であり形骸化しているケースもあります。
上記の調査結果でも「仕事の評価が難しい(従業員)」「評価が難しい(企業)」といった回答も多くあります。見えない場所で働く従業員の評価は難しく、極端な成果主義となりやすい側面があります。
このように与える仕事の量や内容によって不公平を招く恐れもあることから、業績評価指標を整理し、テレワークにおける成果主義のあり方を明確にする必要があります。
3-3.日本的企業経営とマッチしない
働き方改革の推進で企業側のテレワークに対する意識はある程度向上しており、さらに今回のコロナ禍が普及を後押しする形となっています。
なお、テレワークの普及が日本で遅れた原因は、日本特有の人事システムにあると言われています。例えば終身雇用制と年功制を基盤とする人事システムは、対面的な人間関係が重視されるため、仮想空間のような環境で働くテレワークは敬遠されてきました。
「上司等とのコミュニケーションが困難(従業員)」「コミュニケーションに問題がある(企業)」という調査結果を見てもわかるように、対面的な人間関係は対顧客にとどまらず、上司との関係においても大きな課題となります。
従来、日本型の人事評価は、「業績・能力・情意」という三つの要素から成り立っており、「情意評価」では評価者の主観が入り込むことになります。情意評価の善し悪しは別として、対面的な人間関係を重視する日本型人事システムにどのように馴染ませるかが、今後のテレワーク普及のポイントとなるでしょう。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、テレワークに改めてスポットライトが当たっています。テレワークの導入には様々なメリットがありますが、従来の日本型評価システムがその障壁になるケースもあります。
また、デメリットとしては「情報セキュリティ」の問題もあります。機器利用のルールや従業員教育、そして、セキュリティシステム自体を含めた総合的セキュリティ対策が必要となることも併せて、考えていく必要があるでしょう。
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