簿記には主に「単式簿記」と「複式簿記」という2種類の形式があります。簿記の勉強を始めたばかりの頃は、「単式簿記と複式簿記は何が違うの?」と疑問に思う方もいるでしょう。そこでこの記事では、単式簿記と複式簿記の内容からメリット・デメリット、それぞれの違いを詳細に解説していきます。簿記を学習している方はぜひ参考にしてみてください。
1.複式簿記と単式簿記の違いとは?
複式簿記と単式簿記の最も大きな違いは、「取引の記録方法」です。複式簿記では取引を2つの観点から記録する一方で、単式簿記ではある側面からのみ記録します。
たとえば家賃の支払いを帳簿に記録する場合、複式簿記では「支払家賃(費用)の発生」と「現金の減少」を記録します。これにより、「家賃の支払いを現金の支払いにより行った」ことがわかります。一方で単式簿記では「家賃を支払ったこと」のみを記録します。そのため、「家賃をどうやって支払ったのか」などの側面を把握することは難しくなります。
複式簿記と単式簿記には、税務面の違いもあります。複式簿記は全ての税務申告に対応していますが、単式簿記では青色申告65万円控除に対応できません。
それでは複式簿記と単式簿記を詳細に見ていきます。
2.複式簿記とは?
複式簿記とは、取引内容を2つの側面から記録する手法です。取引の内容に応じて、「現金の増減」と「増減が発生した要因」を帳簿の借方(左側)と貸方(右側)に記録します。これを仕訳と呼びます。
2-1.複式簿記の特徴
たとえば自宅兼オフィスの家賃代として10万円を支払ったケースでは、「家賃分の費用100,000円の増加」と「現金100,000円の減少」を記録することになります。この取引を複式簿記の仕訳で表すと下記のようになります。
(借方) 支払家賃100,000円 (貸方) 現金100,000円
「支払家賃」「現金」などは勘定科目と呼ばれる取引内容を表す簿記用語です。単式簿記では「家賃代 100,000円」などと記録するだけですが、複式簿記ではさらに「現金」で支払ったという情報が追加されます。お金の発生原因や処理した方法まで記録することで、お金の流れがより明確になり、決算書(会社の業績を内外に示す資料)を作りやすくします。
2-2.複式簿記のメリット
複式簿記で記帳する(=帳簿に記録する)メリットは次の3つが挙げられます。
- 企業の取引を網羅的に記録できる
- 会社の財務状況を把握しやすくなる
- 青色申告の65万円控除が受けられる
企業の取引を網羅的に記録できる
単式簿記の場合、現金の増減理由を調べるには個別に集計する必要があるため、手間になります。一方、複式簿記の場合は最初から網羅的に記録しているため、一定期間の利益を比較的簡単に算出することができます。
会社の財務状況を把握しやすくなる
複式簿記により普段の取引を網羅的に記録しておくことで、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表(=決算書)を作成できます。それらの財務諸表を確認すれば、その期間の利益のほか、どのような取引を行ってどのような変化があったのかも把握することができます。
青色申告の65万円控除が受けられる
単式簿記の場合は基本的に白色申告または青色申告の10万円控除しか受けられません。しかし複式簿記で記帳しておけば、65万円までの控除を受けることができます。節税するうえでは、個人事業主・フリーランス、経営者などの方にとって大きなメリットになります。
なお複式簿記は、青色申告の65万円控除を受ける上で要件となる「正規の簿記」とされています。正規の簿記とは、企業会計原則で採用される「網羅性(全ての取引きを記録しているか)」、「秩序性(一定の決まりに基づいて記録しているか)」「検証可能性(後々検証できる資料に基づいて記録しているか)」という3つの要件を満たした簿記を言います。会社が提出する決算書類なども「正規の簿記」で作成されていることが原則となります。
2-3.複式簿記のデメリット
様々なメリットが得られる複式簿記ですが、次のようなデメリットもあります。
- 記帳方法が難しい
- 手間がかかる
記帳方法が難しい
単式簿記と比べると記録方法が難しく、ある程度の慣れや専門知識が必要です。複式簿記で取引を正確に記録するには、「貸方・借方の概念」「各科目の知識」など、簿記に関する知識が必要となるため、ある程度は学習する必要が出てきます。
手間がかかる
取引を記録するのが難しいだけでなく、複式簿記は単式簿記と比べると取引の記録に手間がかかります。とはいえ、近年は簡単に複式簿記で取引を記録できるサービスやソフト・アプリがあるため、以前と比べると手間をかけずに済むようになっています。
3.単式簿記とは?
簡単な記帳方法である単式簿記の特徴やメリット・デメリットを見ていきます。
3-1.単式簿記の特徴
単式簿記とは、ビジネス上の取引をお金の側面にのみ着目した上で記録する手法です。先ほどの例のように家賃10万円を支払った場合は、「10万円の減少」のみを記録します。単式簿記は「お金がどのくらい増減したか」のみを記録する手法であるため、お小遣い帳や家計簿、銀行の通帳などと基本的には同じです。
そのため、単式簿記は「正規の簿記」の条件を満たしておらず、青色申告の65万円控除を受けることはできません。普段の取引を単式簿記で記帳した場合、節税効果の低い白色申告や、青色申告の「10万円控除」が適用されることになります。
3-2.単式簿記のメリット
単式簿記のメリットは次のとおりです。
- 記帳方法が簡単
- 手間がかからない
記帳方法が簡単
取引を簡単に記録できるのが単式簿記のメリットです。現金の発生や減少のみを記録すれば良いため、簿記の知識がない方でも容易に作成することができます。
手間がかからない
単式簿記では取引を1つの側面からのみ記録するため、作成する手間も少なくて済みます。ビジネスが忙しい方にとっては、手間が少なく済むのは大きなメリットになる場合もあるでしょう。
知識がほとんど必要ない上に手間もかからないため、事業をスタートしたばかりで所得が少なく、白色申告や青色申告の10万円控除で十分な個人事業主の方などは、単式簿記から初めてみるのも良いでしょう。ある程度収益が得られるようになった段階で、複式簿記に切り替えるのも一つの選択肢です。
3-3.単式簿記のデメリット
単式簿記はビジネスを始めたばかりの方などにとっては、それなりにメリットもありますが、事業規模が拡大するにつれて様々なデメリットが発生します。
- 経営状態を把握しづらい
- 青色申告の65万円控除が受けられない
経営状態を把握しづらい
複式簿記では現金の増減とその理由を一目で把握できるように記帳しますが、単式簿記では現金の増減理由は記録しません。そのため、現金の増減理由や利益の額など、現時点で自社の経営状態がどうなっているのかが把握しづらくなります。
青色申告の65万円控除が受けられない
65万円控除を受けられるか・受けられないかでは、支払う税金に大きく影響する可能性があります。少しでも節税効果を高めたいのであれば、複式簿記で記帳するのがおすすめです。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。複式簿記と単式簿記にはそれぞれメリットとデメリットがあるため、事業の経営規模や個人の状況に合わせて記帳方法を選ぶことが大切です。ただし、青色申告による65万円控除のメリットが大きくなるような場合は、経営状態を把握しやすく、税制面でも優遇される「複式簿記」を選ぶのが良いでしょう。
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