商業高校の出身者や経理の方にとっておなじみの簿記には様々な種類があります。簿記系の資格を取得する際は、就職や転職時に資格を取得していると有利になる商業簿記や、建設業や銀行業など特定の職業に合わせた簿記など、自身のキャリアアップにとって最も合う「簿記」を選ぶのがおすすめです。この記事では、簿記系の資格取得を目指す上で知っておきたい簿記の種類と内容、難易度について詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。
1.簿記の種類
簿記には、次の5つの種類があります。
- 商業簿記
- 工業簿記
- 建設業簿記
- 銀行簿記
- 農業簿記
それぞれ見ていきましょう。
2.商業簿記
商業簿記とは、商売を行う企業の資産・負債の増減や、仕入れから販売までの流れで発生した費用や収益に関する会計処理を意味します。一般的な企業や店舗で広く使用されている会計処理の方法であり、簿記といえば基本的に「商業簿記」を指すことが多くなります。
2-1.商業簿記の難易度
商業簿記は会計分野の中では基本的な知識です。簡単に言えば「仕入れた商品を販売する」という単純なビジネスモデルの処理を行う会計処理となり、材料の仕入れや製造などは考慮しません。
商業簿記は、日商簿記検定の4級~3級の基本となる「収益(売上高)−仕入れ費用=利益」という計算の仕組みに対する理解が求められます。簿記や会計分野の中でも根本的な知識となるため、簿記を学習する際は商業簿記から始めるのがセオリーです。
2-2.商業簿記が役に立つ職種・場面
商業簿記は、他の種類の簿記(工業簿記や農業簿記など)の基礎となるため、商品の販売を行う小売業のほか、製造業や卸売業など幅広い業種で役に立ちます。また、ビジネスマンの一般常識としても身につけておくと役立つため、簿記を学ぶ方は優先的に取り組むと良いでしょう。
3.工業簿記
工業簿記とは、材料を仕入れて商品を製造・販売する企業の会計処理に関する簿記です。商品の仕入れと販売のみを記録する商業簿記とは異なり、工業簿記では「仕入れと販売」という商業簿記のプロセスに、「製品を加工する」という処理が加わります。
3-1.工業簿記の難易度
「製品を加工する」処理が加わるため、工業簿記の難易度は商業簿記と比べると高くなります。なぜなら、「製品を製造するのにどのくらいの原価がかかるのか」を計算する「原価計算」という処理が求められるからです。
原価計算では、原価を製品との関連性などに基づいて分類し、商品の製造原価を適切に算出するための知識が必要になります。商業簿記よりも高度な知識となるため、日本商工会議所が実施している日商簿記検定では2級以上になって初めて工業簿記が出題されます。
3-2.工業簿記が役に立つ職種・場面
工業簿記は、商品の製造や加工を行う「製造業」で役に立つ簿記です。「工場で製造している製品の原価がどの程度か」などを計算できるため、経理部門などで働く上では大きな武器となります。
また、工業簿記で用いる原価計算は、経費の削減や部門別の営業利益を比較する場合でも便利です。経営計画の策定や管理にも役立つので、経営に関与する職種でも重宝されるスキルと言えます。
4.建設業簿記
建設業簿記とは、建設業の経理や財務に関する会計処理です。建設業では、多くの資金や労働力が使用されて仕事が進められるため、小売業や製造業と比べると会計処理の方法に特殊性があります。
たとえば建設業簿記では、「工事進行基準」という方法により費用や利益を計上します。また、「完成工事高」「未成工事支出金」といった特殊な勘定科目を用いるのも建設業会計の特徴です。
4-1 建設業簿記の難易度
建設業簿記の知識は、「建設業経理士検定試験」(一般財団法人建設業振興基金が主催)という資格試験で出題されます。難易度については、日商簿記で学習する商業簿記と工業簿記の基礎があればそこまで高くは感じないでしょう。
実際、建設業経理士検定3級は日商簿記検定3級よりも易しく、1級は日商簿記2級よりも若干難しい程度とされます。建設業独特の知識は必要ですが、商業簿記や工業簿記の基礎知識があれば十分対応できる範囲であるといえます。
4-2.建設業簿記が役に立つ職種・場面
建設業簿記は、主に建設業に携わる会社の経理部門や財務部門で役立ちます。建設業経理検定1級になるとかなり高度な知識を習得しているとみなされるため、会計事務所や行政書士事務所でも重宝されます。
5.銀行簿記
銀行簿記とは、銀行業で使用される簿記です。たとえば全ての取引について現金口座を介して記帳する(=帳簿に記録する)という特徴があります。
また「預金」を負債の部に記帳するのも銀行簿記独特の処理方法です。顧客から見ると預金は資産ですが、銀行から見ると預金は「顧客の希望があった際に返す必要があるもの」とみなされるため、預金を借金として記帳します。
5-1.銀行簿記の難易度
銀行簿記では、現金口座を介して取引を記帳したり、預金を負債の部に記帳したりするなど、一般的な種類の簿記とは異なる特徴を持ちますが、商業簿記の基礎知識があれば十分に対応できます。日商簿記検定2級程度の知識を習得した段階で銀行簿記に取り組めば、スムーズに銀行簿記の技術を習得できるでしょう。
5-2.銀行簿記が役に立つ職種・場面
銀行簿記は銀行業の会計処理に特化したものであるため、基本的には銀行でのあらゆる職種に役立ちます。銀行への就職や転職を考えている方であれば、取得を検討してみると良いでしょう。
6.農業簿記
農業簿記とは、農業の経営で使用する種類の簿記です。商品の販売のみならず製造までを行うため、工業簿記に近い性質があります。そのため、農業簿記では実践的な原価計算や生産する作物別に会計処理を行う特徴があります。
また、事業である農業と家計が混同することの多い農家にとって、家計と農業を区別し、正確な所得や費用を計算する上で農業簿記は重要です。
6-1.農業簿記の難易度
農業簿記では、商業簿記と工業簿記の基本的な知識が求められます。農業簿記の資格である「農業簿記検定試験」(日本ビジネス技能検定協会が実施)では、日商簿記と比べて素直な問題が出題されているなど、難易度自体はそこまで高くありません。
しかし、「肥料費」など農業独特の勘定科目が出題されるため、多少の慣れと暗記は必要になります。
6-2.農業簿記が役に立つ職種・場面
農業簿記は、農家を経営している自営業の方や農協の職員などが知っておくと役に立ちます。また農業に直接関わってなくても、税理士事務所などに勤めている方であれば、農家の案件を扱えるなど活躍の場が広がるでしょう。
7.まとめ
いかがでしたでしょうか。簿記の種類ごとにそれぞれの特徴や難易度などを解説しました。簿記の種類ごとに役立つ職種や求められる知識は異なるため、簿記の勉強をこれから始める方は、あらゆる職種に応用できる「商業簿記」や「工業簿記」から取り組むのがオススメです。そして銀行業や建設業など特定の職種で働く場合は、銀行簿記や農業簿記といった専門的な簿記を併せて学習すると良いでしょう。
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